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電車と共にある人生【#3000文字チャレンジ】

日常
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keyword:「電車」

 

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僕ってあんまり電車に思い入れがなくて。

おいおいいきなりタイトル詐欺かこの野郎っていきり立つのは分かるよ。でもその振りかざした拳は下ろそう。抜いた刀は鞘に納めよう。重火器の類は地面に置いて1m離れて跪いて手を頭の後ろで組め。

平和的にいきましょう。争いは、憎しみの連鎖を生むからね。

 

それでは平和的に話を戻します。おい、手は後ろで組んだままにしとけ。生殺与奪の権は俺が握っていることを忘れるな。

 

僕は学生の頃から一貫して電車通学ではなかったし、就職しても現在進行系で電車通勤でもないから、人類に比べて平均電車乗車指数はやや下回るのではないかと思うのです。なので割とT.B.(※)寄りですね。

(※Train Beginnerの略)

電車の型式とかも当然のように全く分からないし、時刻表の見方すらやや危うい。路線図とかミミズの集合体にしか見えない。これは社会人として果たしてどうなんだろう。

あ、でもいつか娘が生まれたりしたら、新幹線の名前とか付けたりすると可愛いよねっていま唐突に思ったけど、「こだま」のせいで完全にアタックチャンスになっちゃうので僕は安定の角の5番を取りに行こうと思います。

そんな僕が電車の記事を書こうってなると、そりゃもうこの世に産み落とされし三十年間の電車エピソードを絞りに絞り出さないと成立しないので、出涸らしになる勢いでタイピングを加速させます。

 

始まりは、僕の幼少期から。

男の子ってさ、だいたい電車好きな時期があるじゃない。乗り物に対する執着愛がすごい旬があるじゃない。多分に漏れず僕の中でも空前絶後の電車ブームが襲来しまして。

プラレールで夢中になって遊び、機関車に不気味な顔面が張り付いた異常性について誰も声を上げない点がまた異常の代名詞的存在・トーマスを食い入るように見入っておりました。

話は少し逸れるんだけど、当時の僕をとりまく家族体系が少し変わってて。両親とはあまり会うことはなく、同居している祖父母に面倒を見てもらうという状態でした。

祖父母といえば、目に孫ブチ込み案件でもノーペインの代名詞的存在。端的に言うと、当時僕を頂点とした絶対王政が敷かれてたわけですね。それはそれはもう猫可愛がりで寵愛を受けまして、僕はすくすくとワガママモンスターへと育まれていきました。

際限なく湧き続ける孫の欲望は祖父母のポケットマネーにより望むままに叶えられていき。ちょっとした規模だったプラレールも、絶対曲がりきれないカーブや傾斜30度越えの坂といったユーザーファーストに逆行するような路線を次々と生み出し、無理な増築を重ねた結果一室がサクラダファミリア状態になったこともありましたね。

といっても、僕の悪行の数々は厳格な父親の耳にすぐに届き、喝を入れられることで絶対王政は終焉を迎えることとなりました。短い王朝でした。諸行無常。

こうして僕は、齢5歳にして「欲とはかくも愚かなものか」と達観して己を戒めることとなったのです。

 

電車は、自分の思う通りにはならない厳しさを教えてくれました。

 

小学生の時分。

電車は見るもの・作るものから、乗るものに変化していました。と言っても一人で乗れるものではないので、誰かしらに連れられてどこかしらに行っていた記憶があります。ここだけ切り取るとただの誘拐案件なんですけど。

でもまー小学校の頃の記憶なんてこんなもんじゃない?事細かに覚えてないっしょ?脳にはキャパってもんがあるからさ、それだけ今が充実してるってことにしとかない?ね?はいQ.E.D.

 

そんなあやふやな記憶の中でも。

電車に乗る時の胸の高鳴りは、すごく覚えてる。乗り込む時の、ホームと入り口の隙間がとてもとても怖かった。手を連れられながら、意を決して踏み出した右足。乗り越えた時の達成感。って大層なことのように言ってますけどね。ま、子どもだからね。可愛いもんでしょ。

笛が鳴り響き、ドアが閉まる。あーなんだか、別世界に入ってしまったようだ。

ガタガタと車体が揺れ始め、その不思議な心地よさに身を預ける。窓に目をやると、真っ白な光が帯になって車内に差し込んでいる。スライドしていく風景がとても新鮮に思え、次々に通り過ぎていく木を一本一本、食い入るように見つめていた。

あぁ、僕はいま、トーマスの中から見ているんだ。

 

電車は、小さな体には収まりきれないくらいのワクワクを教えてくれました。

 

中学生の時分。

ある程度の分別をもち始める、生意気な頃ですね。でも、その生意気さは不安の裏返しかもしれない。中学生って、そんな時期じゃない?

このへんの歳になると、一人でもやや遠出をするようになるので、電車にもソロデビューかますことになるわけなんですけども。

慣れない時って、めっっっっちゃめちゃ不安なんだよね、電車。電車 is 恐怖。

今みたいに便利なアプリがあるわけでもないしさぁ。券売機の上に貼ってある広大な路線図(ミミズ)と睨めっこして、綿密にシミュレーションを重ねて券を買うわけですよ。

で、改札機をくぐり抜けて誘導電光掲示板をチェックすると、もうおったまげですよ。あの誘導さぁ、大まかな〇〇方面としか書いてないじゃん。ざっくりしすぎだって。中学生がそんな詳しく地元の地理知らねーし。

だから、我の目的地は何方面ぞや?と一人でよくハワワ状態になってました。ハワワ。初めのうちは駅員さんに聞くのもなんかダセーしなーと謎の虚勢を張ってたんだけど、何回か乗り間違えて大目玉食らいMAXだったんで。

背に腹は変えられんということで正直に分からない旨を伝え、段々と教えてもらうようになり、スムーズに電車を使えるようになりましたね。

へへへ、人に聞いたとはいえ、一人で乗れるようになったぜ。と人生のレベルアップに嬉しくなったことを覚えています。へへへへ。

 

電車は、意地を張らない素直さと、ちょっとした自分の成長を教えてくれました。

 

高校生の時分。

まぁこの頃になってくると、ほぼ大人みたいなもんだからね。用事に遊びにバンバン電車使うよね。

旅行で新幹線にも乗ったりするようになってきたんで、かなりのT.P.(※)となってきた自負があります。

(※Train Professionalの略)

小学生の頃に感じていた、ホームと電車の境目。いつの間にか、すっかり怖くなくなってしまった。これって良いことなんだろうか?寂しいことなんだろうか?

寂しいといえば、高校を卒業しての友人との別れは寂しかったなぁ。僕は地元・福岡の大学に進学組だったんだけど、地元を離れちゃう友人もいて。

最後の日、見送りに行ったよね。新幹線の入場券を買って(入場券の存在はここで初めて知る)。

「向こう行っても頑張れよ」なんて言っちゃって。あーなんかドラマみたいなこと言ってんな自分。

「辛くなったらこれ聴けよ」って、およげ!たいやきくんのCDを渡したっけ。その場でネタバレしないように厳重に梱包して。「ケミストリーのベストアルバムだから」ってごまかした気がする。

見知らぬ土地の荒波に揉まれないように、との願いを込めてたんだけど、真意は伝わってたのかな。ちなみに友人の彼とは、今でもmixiでマイミク同士の仲です。

 

電車は、一時の別れの寂しさを教えてくれました。

 

大学生の時分。

お金にも余裕が出てきだすから、けっこう旅行とか行くよね。あととにかく酒を飲むよね。

一回、ゆったり鈍行で大分県まで足を伸ばしたことがあって。大分県が目的というよりかは、その過程がメインで。

鈍行に揺られながら、駅弁を食べて、缶ビールを煽る。これ。これをやりたいがための旅行。ただそれだけ。正直、大分サイドをないがしろにして申し訳ないことをしたと思う。

なんなんだろうね、このシチュエーションに憧れるのって。誰しもない?これ。はっきりと何かで見聞きしたシーンでもないのに、DNAレベルで染み込み系のやつ。

というわけで、僕のこの崇高な理念に共感してくれた友人と山のように酒を買い込み、駅弁 with 酒 at 鈍行をキメまくりました。

結論から言うと最高 of 最高で、どんどん空いていく缶を賽の河原のごとく窓の縁に重ねていき、これジェンガでいったら鼻息で倒れるレベルだよねってとこまできたので自主回収する運びとなりました。

見慣れない景色を肴に飲むお酒は本当に気持ち良くて。美味い飯と、気の合う友人がいて、夢見心地。これが大人の贅沢なんだと、優越感に浸っていました。

ちなみに、移動中に飲みすぎたので大分に着いてからの工程は一つも予定通りに行くことはありませんでした。カス。欲望のままに酒を煽る僕を見て、達観した幼少期の僕は何を思うだろうか。

 

電車は、大人になった一端の優越感と、夢のような楽しさを教えてくれました。

 

社会人の今。

車で移動することが多くなっちゃって、あんまり電車に乗る機会もなくなっちゃって。

でも、ちょくちょく乗る時があったりすると、やっぱりちょびっとワクワクするんだよね。幼い頃から変わらぬ性癖というか。三つ子の魂百までってやつよ。

今はアプリもあるから、乗り間違えることもないし。中学生の頃から成長したというか、時代が成長しただけだよね。これって。

で、電車にユラユラ揺られながら目を瞑ってるとさ。まぶた越しに光が伝わってきて、一面真っ白な世界になるんだよね。あれ?ここ天国かな?って。もうお昼寝モードに確変突入するよね。で、目的地通り過ぎる。一時期、昼寝するために電車乗ってた節があるもの。

 

あー思い出した。

ちょっと前に、福岡から東京まで出張に行ったんだけど。僕は何を思ったのか飛行機ではなく新幹線5時間コースを選択してしまい、日頃のロス分を取り戻すかごとく電車に乗り続ける業を背負うこととなってしまいました。往復10時間だからね。常軌を逸した上に正気の沙汰じゃない。

行きの道中はまだ良かったんだけど、帰りの新幹線はもう仕事でクッタクタの上に終電近くなのに乗車率100%フルで泣きそうになったよね。

で、隣のおっさんの顔を見るのも嫌だから、ずっと景色を見てたんだけどね。僕もおっさんなのにね。ひどいよね。ゴメンね、おっさん。

 

濃い黒が沈み込んだ、真っ暗な景色。電柱のような漆黒の影が、次々と通り過ぎていく。延々と、延々と。まるで死神の影のようだと、僕は少し怖くなった。小学生の頃に見た光景とは、何もかも違う。これは、トーマスの中なんかじゃない。そんな気がした。

でも。

その先に目をやると、家々の明かりが無数に灯っていて。確か雨も降ってたかな。雨粒で光は滲んで、まるでネオンのように夜の絨毯を彩っていた。

見知らぬ土地に、これだけたくさんの暮らしがあって。その灯りの一つ一つに、家族があって、一人一人に人生があって。その景色が、ずっとずっと続いてる。上手く言えないけど、これってすごいことなんじゃないかと、少し感傷的な、それでいて胸が高鳴る気分になった。

 

電車は、少しの絶望と、その先にある希望を教えてくれました。

 

 

僕ってあんまり電車に思い入れがなくて。

でも、乗る時はいつも、不思議と心を動かされる。

 

これから先、電車は一体なにを教えてくれるのだろう。

付かず離れずの、電車と共にある人生。僕と電車は、いい距離感で走り続けてる。

 

おわり。

 

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