秋の訪れを感じ始めた九月某日。誰に言うこともなく、僕は密かに心に決めた。決心するほどの心構え。そう、実は、バーガーキングを食べたことは今に至るまで一度もない。
というのも。
そもそも僕は基本的にハンバーガーそれ自体を食べない。徹底して食べない。理由は簡潔、めちゃくちゃ食べにくいからだ。あまりにも食べにくすぎる。なんだこの料理は。手は汚れるし、口周りはベタベタするし、ポロポロこぼれるし。
ハンバーガーというものは、不完全な料理。これが幼少期の頃に結論付けた、僕の見解だった。
しかし、幾年月が過ぎ、尖った石が緩やかな川の流れの中でゆっくりとゆっくりと削られていくように、僕のハンバーガーに対する攻撃性は次第に鳴りを潜め、丸みを帯びていった。僕は今年で32歳になる。平成元年生まれ。平成世代が、もう30代なのだ。なんとも恐ろしい話である。
何も成すことはなく年齢だけ重ねてしまった事実には目を背けるとして、そろそろハンバーガーに歩み寄ってみようかと思い立ったのが、今回の行動の動機というわけだ。
数あるハンバーガーショップの中でバーガーキングを選んだのは、なんかめっちゃネットでよく聞くし、なんかめっちゃ評判がいいからだ。そんな希薄かつミーハーな理由で、この物語は進んでいく。
初心者、バーガーキングを食べる
というわけで新幹線で博多駅にやってきた。
僕が君臨している福岡県北九州市にはバーガーキングが一店も存在しておらず、しょうがなく新幹線で博多駅までやってきた。ハンバーガーを食べるために新幹線に乗るとは、終わった休日の手本のような過ごし方である。
駅から直結、バーガーキング博多駅筑紫口店さんだ。
さて。
本丸を前にしたわけだが、ハンバーガーに関してはベイビーレベルの僕が、無策でキングに挑むのはあまりにも無謀すぎる。
明日人生初のバーガーキングに赴こうと思ってる。
緊張で夜しか眠れない。
有識者の諸君、作法と最適な立ち回りを教えてくれ。
— tdk (@tdk1989_) September 11, 2021
まずはTwitterを活用し、人海戦術で情報を得る。ほとんど大喜利みたいな回答が並んでしまっているのは日頃の僕の人徳の低さ故だが、そんなカスみたいなリプにも丁寧に返信していくのが日頃の僕の人徳の高さだ。
更に、バーキン通のリアル友人にもアドバイスを求めたところ、
なかなかの長文で返ってきて胸焼けをしてしまった。なんなのこの熱量は。社交辞令でとりあえず褒めておく。
「ハンバーガーの本質」とかいう概念にまで言及し始めたため、後半は無視することにした。しかし、ハンバーガーを食べる前に胸焼けとは、本末転倒である。
さて。
応援いいねをしてくれた総勢76名と、アドバイスをくれた友人を含めた累計18名の想いを背に受け、僕はバーガーキングに挑む。
作戦としては、アプリクーポンを使用した上で、ダブルワッパーチーズセットをオールヘビー・ハーフカット(※)というオーダーでいただく。
(※用語が分からない糞雑魚のために解説してやるが、オールヘビーが野菜やソースが増量されるカスタマイズ、ハーフカットがハンバーガーを半分に切ってもらうカスタマイズだ。わかったか?糞雑魚ども。ちなみに僕も昨日知ったばかりだ。早速イキってごめん)
特に、オールヘビーに関しては有識者たちが馬鹿の一つ覚えのように口を揃えてオススメしていた頼み方なので、信頼性は高いと言えるだろう(口が悪くてごめん)
何でもオールヘビー終了の噂がちょくちょく出てくるらしいが、完全にデマだそうだ。人は扇動される愚かな生き物。
入店後、可及的速やかにクーポンアプリを起動。ダブルワッパーチーズセットオールヘビーハーフカットクーポンデオナシャステンナイデタベマスと流暢な呪文を詠唱し、番号札を受け取る。
無事オーダーをクリアし、店内を物色しつつ着席。一呼吸。その直後、強烈な違和感を覚える。
(イメージ)
この席、冷房がめっちゃ当たる。
すうんんんごい風が来る。天井に目をやると、鈍色に光る業務用クーラーがバーキンベイビーをあざ笑うかのように不気味な存在感を放っていた。
見知った街を離れ、未開の地で、初バーキン。超絶アウェイのこの環境で、このダイレクトウインドは大いなる厄災をもたらすのではないか。僕の本能とも言える野性的勘が、警鐘を鳴らしていた。
しかし。
一度着いてしまったこの席。いちいち移動するのはなんかひじょーにダサい。正に初心者ムーブである。せっかくあらゆる手を駆使して攻略法を確立させたというのに、戦いが始まる前からケチがついてしまうのはひじょーにダサい。よし、決めた。僕はこの席と一蓮托生だ。
さぁ、かかってこい。バーガーキングよ。ダブルチーズワッパーセットよ。
順番が来るまでの間、若干の余裕を取り戻した僕はこんな記事を読んでいた。
(画像は上記記事より引用)
なんだこれ完璧じゃん。もはや一分の隙はなし。恐るるに足らず、バーガーキングよ。ダブルチーズワッパーセットよ。
・・・
・・
・
きた。ちなみに飲み物はアイスコーヒーにした。
早速、先ほど読んだ記事にならってスマートな開袋を試みる。
試みる。
試みる。
あ、あれ?全然思うようにできない。あれ?え?ちょっと?あれれ?
う、うわぁぁーーーーーーーーーーー
グッシャグシャ!
食べる前からもうグッシャグシャ!
台風で倒壊した家屋みたいになってんじゃん!よし、ハリケーンブレイクと名付けよう!!(錯乱)
狼狽した僕は、無視していたバーキン通の友人に可及的速やかに連絡。速攻で返信が来る。こいつが暇かつ良い奴でよかった。
あ…あぁ…。なんということだ…。
馬鹿だな
俺のいう通りにせず、すぐにネットを鵜呑みにする
友人の言葉が、重くのしかかった。
なんとか態勢を立て直し、一口かぶりつく。が、味わう余裕なんてとっくになくなっていた。手と口は汚れ、デフォで置かれていたペーパーはすぐに使い切ってしまった。
あぁ…怖い。バーガーキングが怖い。
間髪を入れず、そこに第二の魔手が迫る。
(イメージ)
風だ。
懸念していた不安が、的中した。
天井からの強烈な冷風が、トレー上の紙類を次々と床に落としていった。
舞い落ちるストローの袋、吹き飛ばされる使用済みペーパー。
あ…
ああ…
あああああああああああああああああ
極めつけに、破って置いていた包装紙まで吹き飛ばされ、床にソースと玉ねぎがペタリ。
理性を失った僕は、たまらずトイレに駆け込んだ(バーガーキング博多駅筑紫口店さん汚してごめんなさい)。
・・・
・・
・
トイレに貼ってあるクーポンアプリご利用ガイドを意味もなく読みながら平静を取り戻した僕は、念入りに手を洗い、ペーパーで汚した床の掃除をした。
伊達に32年間も生きてはいない。セルフメンタルケアは習得している。
半分まで食べ切ると、大分食べやすくなってきた。ハーフカットのおかげか。
パティが直火焼きだそうで、この肉肉しさはなかなかにたまらない。オールヘビーでボリュームとソースのパンチもある。といってもそこまで重たくも感じず、サクッと食が進む。ほぅ、美味しいじゃないか。
やっと分かり合えてきたぞ、バーガーキングよ。ダブルチーズワッパーセットよ。
(ちなみに後半崩壊したので、またトイレで手を洗う羽目になった)
ポテトが全然減らない。
配分にまで頭が回らなかったため、ポテトがほぼそのまま残っている。
おもてぇ…ポテトがおもてぇよ…。
たすけて…。
幾年月を経て完食。ちなみにアイスコーヒーは一口すら飲んでいない。配分を考えていなかったからだ。
完敗だ。ハリケーンブレイク、ダイレクトウインド、ポテトザファイナル。どれをとっても目も当てられない。
ふと隣の席を見ると、家族連れが美味しそうにハンバーガーを食べている。小学校低学年ほどの女子が、スマートにワッパーを口に運んでいる。
色んな意味で完敗だ。
よし、逃げよう。
出よう。じゃない。逃げよう。だ。
もうこのお店にはいられない。居たたまれない。アイスコーヒーを片手に、足早に出口へ向かう。
店員さんの「ありがとうございました」が胸に刺さる。
それから…
その後、アイスコーヒーは近くの広場で放心しながら飲みました。
ベンチの隙間から、緑芽が伸びている。たくましい。僕も、強く生きねば。
というわけでモスから出直してきます!
おわり。
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